1,12月20日 日曜日 0時35分 熨子山山頂展望台

Sunday 15 March 2020
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1.mp3 眼下には渋い夜景が広がっている。 ここ金沢は藩政期より城下町として栄えた地域。当時の歴史と伝統が今も色濃く残っている街のため、日中は観光都市としての顔を全面的に出す。 観光名所には人が集まり賑やかさを創出する。しかし夜になればそれは一転する。 市内全域は水を打ったような静けさに覆い尽くされる。 その空気の重量感と質感は重く、妖しさを内包している。 間宮はその妖しさに包まれた街を、熨子山から眺めていた。 熨子山は金沢の北東部にある山で、そこから見る夜景は美しかった。 妖しげな空気の中に点在する街の照明群。それと相対するように闇を演出する寺院群や田畑。 対照的なものが絶妙に混ざりあい、陰と陽のおもむきを感じることができる。 熨子山は金沢市街地から車で約三十分の距離にある。市街地から少し離れたところにあるが、整備も行き届いており休日には地元の家族連れが遊びにくるようなところだ。 だがここは夜になると交通量は極端に少なくなり、外部からの侵入者を拒むかのような空気をもっていた。 十二月。 日が沈むと冷えきった空気が肌を刺す季節だ。 熨子山の山頂にある展望台で間宮は静寂に包まれていた。 そっと彼に身を寄せる者がいた。彼と同じ会社に勤務する桐本だ。 今日この時間にここを訪れる者は彼等以外になかった。 彼女の頭を撫でながら、間宮は眼下の金沢の夜景を眺めた。 麓から幾度か曲線を描いてこの場所に来ることができる。 間宮はここまでの道を市街地から順を追って見ていた。 彼の視線が熨子山の中腹にさしかかったとき複数の赤く明滅するものが登ってくるのが目に止まった。 ―パトカー?…そういえば10分程前にもパトランプが見えた。 その光は着実に山を登ってこちらの方に向かってきている。 不審に思った間宮は頃合いを見て、この場から立ち去ろうと考えた。 「由香。」 彼は唐突に桐本を抱きしめた。 「ずっとこうしていたいよ。」 お互いの息遣いと脈打つ音だけが耳に入ってくるほどの静寂。抱きしめ合う中、間宮の鼻腔に入り込んでくる桐本の香りはいつもよりも香しく感じられた。 間宮に覆いかぶさられるように抱きしめられていた桐本の体は小刻みに震えだした。 「ごめん…こんなところに長居させてしまって悪かった。寒かったよね…。」 すると彼女の体の震えが大きくなった。その震えは徐々に大きくなってくる。 「え…?大丈夫?」 思いの外彼女を寒い目に遭

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